輪島功一というボクサーは花がないと言われた。チャンピオンになった後も公団住宅に住んでいたり、チャンピオンとして後進に成功への憧れを抱かせるような華美な生活とは縁がなかった。
しかし、輪島功一が日本人に見せたのは真の夢であった。
1976年の柳済斗との再戦WBA王座決定戦は、誰もが輪島の負けを予想していた。相手は当時最強のチャンピオンであり前回対戦では無惨なKO負け。そして輪島は既に32歳。スタミナ、スピードあらゆる面で輪島に有利な点はなかった。
マスコミ、評論家、誰もが輪島の負けを予想。しかし、ただ一人「勝利」を確信していたのはリングの上の輪島だけであった。そして試合が始まれば、輪島は格好は悪いが低く身を構え敵を追いつめ、そして奇跡は起こり、最終15回、ポイントで有利なことを顧みず果敢に攻め続けKOで仕留めた。マスコミはその奇跡を、試合前には負けを予想した事を見事に忘れたかのように勝者、輪島を褒めそやした。
勝負するのは、本人であり、周りの予想が勝負の左右に寄与する事などない。ただ、「スタンド アンド ファイト」
過去の経歴や、今現在の分析なども関係ない。それが、勝負に挑む、チャレンジする人間の希望、夢、志だと。
やらなきゃいけないときに、分析も予想も何も参考にはならない。
行動する主体の人間の志だけが、結果を生むのだと。
夢は予想や、検証からは生まれない人間の創造であると。
今でも、私たちの心に「スタンド アンド ファイト」は生きています。